2ステトリガー
再現
したい
MWSで。









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こんばんは。MWSで絶対2ステ再現したい管理人です。
前回(マルイM4 MWS トリガー修理・調整メモ)・前々回(マルイM4 MWS 分解・内部メンテ時に気をつけること)に引き続きMWSの内部改良記事第3弾。今回も純正トリガーの引き心地を良くする内容です。


前回でトリガー戻らないとかのトラブルはだいたい直ってるはず。加えて引き切りまでなめらかにするのは行いました。
この記事では更にワンランク上のなめらかなトリガープルと、2ステージトリガーらしいウォールを作る加工をやっていきましょう。


MWSの発売から今年で10年になります。発売前情報から内部メカが変・音が変・トリガープルが変だとか言われてきましたが、流石にこれだけの流通量とパーツが出てからはそんな話は聞かなくなってきました。作動も安定してますしね。
ただ、これだけ経ってもトリガーボックスを入れ替えて機構そのものから変えるようなパーツは片手で数えても余る程度。トリガープルを良くする、自分の好きなようにセッティングするのは純正形状の社外パーツを入れて、イモネジで遊びを減らしたりリセットやブレイクの位置を変えるくらいのことでした。
ネットに転がってるトリガープルを良くする方法というのもだいたいが前回までに紹介した表面を磨く程度でそれより先のプルの性格を変えることはやらなくていい場合も多いですし、ネットで方法が見つかるものではなかったと思います。やってたとしてもカスタムショップや個人で独自研究して非公開な情報にしてたんじゃないかな。

かくいう自分もトリガープルに関してここまで気にするようになったのは2020年以降のコロナ影響で、撃ちに行く頻度がほぼなくなった関係で家の中でドライファイアを続けてました。じっくり引き絞るようトリガーを繰り返し引く中、他社製GBBやエアコキのトリガープルにはMWSにはないなんて構造的に当たり前で諦めていたことに改めて気づきを得るきっかけが生まれ、その頃からやたらとトリガーに関して一気にうるさくなった覚えがあります。同時期にブログもしっかり書くようになったし。



まあ、2ステ化に関してはある社外コンプリートトリガーボックス入れれば終わるんですけどね。メーカーによってはリセットもハッキリしてるし手間もかかりません。
この記事の場合は純正でもお金かけずに手間かけてやれば社外トリガーに勝るとも劣らないトリガープルにできるし、自分の好きに性格付けを行えるというのが大きな点です。



話を進める前に、色々説明しておくことが多いので解説のターン入ります。
MWS持ってなくてもこの解説だけでも読んでほしい。鉄砲全てに関係する内容でもあります。




■トリガーを引くことに関係する単語
トリガープル:トリガーを引くことの総称(引切りの重さだけの意味ではない)
トラベル:移動距離、ストローク
ウォール:引き切る前にあるトリガーが重くなる位置・範囲
ブレイク:引き切り・シアが切れる・撃発する位置・タイミング
リセット:撃発後にハンマーとトリガーが再接合し再び射撃可能になること・その位置
ウェイト:トリガーを引く重さ、その位置でのトリガーの重さなど

この意味は正確にこう!と決まってるわけでもないらしく、ブレイクはリリースだったり、ウェイトもトリガープルウェイトだったりするのでニュアンスで掴んでおいて下さい。本ページ内でも表記ゆれします。


■そもそも2ステージトリガーとは
AR15で話すと(情報がいっぱいあって)理解しやすいのでこの前提で進めますが、鉄砲全てにおいて言える話です。

要はひき始めから引き切りまでの間に、トリガーの重さが変わるもののこと。
(内部形状の違い・引き切りの感触の違いは2ステかどうかという点では関係ありません)
2段階トリガーといえばイメージしやすいでしょうか。ちなみにダブルアクションとは全然違うものです。

先にこちらの記事と動画に目を通すと理解しやすいかも。
A Single Stage Trigger Vs Two Stage Trigger - Precision Shooter
シングルステージと2ステージどっちがどうかって話が簡潔に書かれてます。ブラウザの翻訳機能使って読んで下さい。

こっちはまた別の動画



AR15の場合、トリガーとシアが一体化しているトリガーがほとんど。
普通のM16やM4、ガスブロM4でよくあるトリガーが"シングルステージトリガー"ですが、トリガーを引いているときに接しているものはハンマーのみ。このため引き始めに遊びやプルウェイトが軽い範囲がなく、一定の重さを保ってある程度のトラベルでブレイクする、というのが一般的です。

一方2ステージトリガーは、ディスコネクターの待機位置がハンマーに近づけられているため、トリガーを引いていくとディスコネクターがハンマーに触れ、ディスコネクターSPが抵抗となってプルウェイトが重くなります。ディスコネクターが触れる前と後で重さが変わるので"2ステージ(2段階)"というわけですね。
また、シアの位置もハンマーピン直下からディスコネクター付近に変更されていることが多いです。(一部シングルステージに近い形状で2ステージにしているものもある) 位置を変えた理由はわかりませんでしたが、回転軸から離れているので力のモーメント的になんか考えられてるのかなと思ってます。が、AR15によくある2ステトリガーの形状がM1ガーランドやM14に似ている点があるのでそれを参考にしたのかな?とも。



・シングルステージと2ステージの利点
シングルは遊びがない分速射向きで、2ステは撃発のタイミングがコントロールしやすいため精密射撃向き、というのが今までで一般的な理論でした。昔からの2ステージトリガーは1ステ目を軽くして2ステ目を重くしウォールをハッキリさせるセッティングのため精密射撃向きだったということです。
今は2ステ目を軽くして速射しやすくしたもの、シングルで精密射撃向きのセッティングをしたものなど、いろんな性格の製品が出るようになったりし始めているそうなので、これからは2ステだから必ず精密射撃向きという印象から今後変わってくるかもしれません。

軍用の場合、高ストレス状況下ではプルウェイトを重くしたシングルステージのほうが意図しない誤射撃しにくい・2ステは引き絞ってるときに力の入れ込みミスで意図しない射撃しがちという話はみたことがあります。確かにウォールからのウェイトが軽い2ステージではどこでブレイクするか明確でない場合がありそのまま撃発という経験もあるので理解できます。
ただ、AR15が軍用として採用されていた期間(M16~M4時代)に今のようなAR15用2ステが存在していたのかは怪しいので、M14からわざわざ変えたのか、そもそもそういう設計でそのまま採用したのかは不明です。一応1960年代のAR10の時代ではFALのようなハンマー・シア・トリガーで作動していたのは確認したので後者のような気がします。どちらにせよ当時のAR10もM14や今のような2ステではないですし。




・ブレイクの感触
よく"ガラスのように割れるトリガー"と表現されるクリスプなトリガーと、粘ってブレイクするトリガーが比べられることがあります。
言語化が難しいですが、氷菓かアイスクリームのアイスバーをかじるときに感じる違いに例えると、前者はいわゆるパキパキした感触、後者はやや粘度を感じるような折れ方をすると思います。それがトリガーにも言えると考えて貰えればよいかと。

海外ではガラスのように割れるか、ニンジンのように割れるか、などと議論の話題になることもしばしばあるようです。確かGeisseleの中の人が"ガラスではなくニンジンのようにブレイクするように2ステ作ってる"みたいな発言の内容の記事を読んだ覚えがあるんですが見つかんなかった。TREXのページに書かれていることではSSAやSD-CのCombatトリガーがニンジンのようなブレイクで、SSA-EやSD-EのEnhancedトリガーがクリスプなブレイクになっているそうな。(GEISSELE TRIGGER COMPARISON - T.REX ARMS)
1ステだから粘る、2ステだからクリスプというわけでもなく、どちらのステージでも作り方次第で変わるということですね。また、使い込めば粘るトリガーでも使い込むとクリスプになることもあるそうです。



・クリープ
ウォールを引ききったあととブレイクの直前の二者の間にある、一定の力で一定距離引けてしまう範囲のこと(多分) 。ウォールの後滑るとか、滑ってブレイクするとかそんな言われ方をします。

HiperFireというトリガーのメーカーが詳しく書いてくださってます。
HIPERFIRE® Trigger Families Trigger Pull Weight and Creep


下、トリガートラベルとプルウェイトをグラフ化できる機械"TriggerScan"を用いて2ステージトリガーをグラフ化した画像です。
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上がウォールのあとクリープなくブレイクする2ステージ、下がウォールのあとクリープで滑ったあとにブレイクする2ステージのグラフ。グラフ左下の引いていない状態から右上の力をかけて引ききった状態までが示されてます。

・Take upと呼ばれるところが1ステージ目に上がるまでの山でパーツ同士の隙間が潰されるまでの範囲
・その後の水平の部分が1ステージ目のいわゆる遊びの範囲
・1ステ目が終わって上に伸びているところがウォール
・(↑ここと↓ここの間の水平気味に伸びているところがクリープ)
・ウォール頂点から下に落ちているところがブレイク
・その後ろがオーバートラベル(後ろ遊び)
━━というのが表されているグラフです。
下の画像はウォールの後水平に伸びているので、ウォールのあと僅かに軽くなったような感覚で少し引き続けた後にブレイクするという状態のことをクリープというみたいです。
要はウォールの後すぐにクリスプにブレイクしないトリガーのことです。

(追記:グロックのスキャン結果ですが、わかりやすいものが見つかったので貼っておきます)
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■つまり何
2ステージトリガーとは
途中でウォール位置でプルウェイトが変わり
ブレイクの位置を掴みやすいトリガー、のこと。

2ステだから必ずクリスプってわけでもないし、2ステだから必ずこのプルウェイトの比率になるというわけでもないです。重さはスプリングセッティングや設計で変わるし、メーカーの個体差によっても左右されます。(geisseleやLMTは手磨きのため個体差が僅かに出るスキャン結果がある)

また、シングルステージ・2ステージ・クリスプなトリガー・粘るトリガー・クリープして滑るトリガーなど様々なものを紹介しましたが、結局は人の好みに寄ります。どれが上でそれより優れているなんてのは個人の意見でしかなく、弾を当てるために使いやすければいいだけで、つまりは射手の好み次第ということをよく覚えておいてほしいです。




で、エアガンの場合は「どこで弾が出るかハッキリわかるトリガー」が2ステージトリガーだと思ってくれれば大丈夫。こんなややこしい内容を理解した上で話すと余計にややこしくなりやすいのでシンプルに捉えてもらってOKです。でも単語くらいは覚えとくといいかも。





これでやっと事前知識の説明が終われます。
2ステージトリガーとトリガープルの説明の内容だけで一記事にしてよかったんじゃないって文章量になっちゃった。こんなニッチで細かい説明すること人生でそうないと思う。言語化大変だった。





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▉MWS 2ステージ・ウォール追加加工

それではMWSの2ステ加工の内容に入ります。
作業に入る前に、前回行った抵抗抜き・表面のヤスリがけは先にやっておくと良いです。
このページの最初の方にリンクありますんでそちらからどうぞ。


この加工では、"イモネジで位置やストローク調整できる社外パーツ"は使いません(写真ではでは社外トリガーが入ってますが、イモネジもなければ純正寸法よりガタが出まくる見た目がいいだけのクソトリガーという実態でなんなら純正トリガーの方が良いトリガープルが得られてます) 
つまり社外パーツとこの作業を組み合わせることで、さらに詰めたトリガーセッティングを実現できるはず。純正パーツを削るだけではどうしてもトリガーバーがセミオートシアに接触するまでのテイクアップ部分の遊びは取れないし、リセットトラベルの調整もディスコネの不可逆加工が必要で結構めんどくさくなります。もっと良い自分好みのトリガーにしたい場合はタップしてネジ追加や社外品を併用することを考えてみてください。
あくまで2ステージ目のウォールの追加と、ウォールからトリガーを戻した時のセミオートシアが初期位置に返ってこない点を改善する内容です。



加工の肝になる箇所はここ。

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セミオートシアとハンマーの接合部です。
ここを研磨してMWSの2段引きがなくなったことから、加工しやすい部位かつ作業量も少なくて済むこの部分の加工でトリガーの性格を変更できることに気づきました。

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前回作業したシアの画像。左側の純正状態の黄色で囲ったあたりがハンマーと触れる部分です。ここの1番上の長い凹みキズが箱出し状態の2段引きのウォールを作り出していて、かつセミオートシアが戻ってこない原因にもなっています。

ここの部分に自分で凹みをつけてやることで、自分好みのトリガーセッティングを作り出すことができるわけですね。セレクター軸のクリック感を出している凹みをシアにも作ってあげるイメージ。
下画像に加工例を。

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↑未加工から表面を磨いただけの状態
↓ブレイク直前の位置に凹みをつけた状態
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下画像の右端、シア先端がかまぼこ状になるように加工しました。半月の棒ヤスリでとりあえず凹ませた感じですね。ツヤが出るくらいに磨いてあげることで、この位置までハンマーが移動してきてからトリガーを戻してもしっかり初期位置にセミオートシアが戻るようになります。

ただしこれだけではウォールらしい感触にはなりません。ハンマーとシアの接触面とほぼ並行になっているため、ハンマー側にも同じように加工してあげる必要があります。
下の画像が加工前のハンマー、パーティングラインのように見えるあたりから下(先端部)がシアと当たる部分で左半分がセミオートシア・右半分がフルオートシアが接触します。

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なので、この位置で作業します。
シアを下から見たのと合わせた写真がこちら。

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赤矢印の箇所が重要
加工する範囲は上写真の通り。ここ以外は削る必要がないので作業量はあまり大きくありません。右側まで削ってしまうとフルオートシアの作動にも影響が出てしまうので左側だけ作業するのが好ましいかなと。なので棒ヤスリで左右両方削ってしまうよりは細いビットをつけたリューターで削るのがいいかも。


アングルを戻して側面から。
断面を下の赤い図のようなイメージで削ります。ただしあくまでイメージで。

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シアとハンマーの先端の角度が鋭角になり、互いに凹みが噛み合うことでウォール感を表現できます。
ここの角度と形状が肝心で、角度を急にすればウォール接触時に感じるプルウェイトを重くできるし、角のエッジを立てるほどクリープのないクリスプなブレイクになるはずです。多分。角度をつける以上にウォールを重くするのはハンマーSPを強くしないと厳しそう。
ただ、どっちも柔らかい亜鉛ですし使い込むうちに角が潰れてきてウォールもなくなってくるかもしれないので、どの程度先端まで削るかはバランスを考えながら調整します。角の幅を広く取れば耐久性は確保できると思うんですが、その分クリープが出やすくなってしまうのでこの方法での耐久性とクリスプさはトレードオフといった所ですね。

加えて画像ではシアの先端の手前が一段凹んでいるだけの状態ですが、根本の方(回転軸側)が2ステージトリガーにおける1ステージ目にあたるので、ここの形状もこだわれば1ステージ目を軽くして2ステージ目を明確にするなどの性格付けができるはず。
これだけ大きい面積で調整が行えるのがMWS独自シアのイイトコだと思っていて、リアル形状のトリガーハンマーシア位置だと面積が小さく、このような加工は難しかったと思います。メーカーとしては耐久性を十二分に確保した上で、こだわるユーザーがトリガージョブしやすいような設計になってるなと感じました。発売から10年間気付けなかったわけですけど。



このことから応用として、まだ試してないことですが2ステージだけでなくシングルステージの再現も可能ではないかなと。
イモネジのある社外トリガーとシアを使えばストロークの短いシングルステージは純正ポン付けで行えていましたが、社外品を使わずともテイクアップ部分だけなんとかスペーサーを作って調整し、加工の形状によって長いストロークでだんだんと重くなっていくトリガーが作れそうな気がしています。
やるとしたらこんな感じになるのかな?

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シングルステージでもクリスプだったり粘ったりするので、そこの再現ができるのも面白いと思いました。リアル形状のVFC純正でも2015のトリガーは粘るし、近年のDXver付属のトリガーはクリスプ、APFG名義だとトラベルの途中でディスコネが接触してシングルステージ形状なのに簡易2ステージ風になってたりと、結構違いがあるんですよね。シングルステージも奥が深い。



この方法でウォールを作ったりブレイク位置を変えたり、逆にどこで落ちるかわからなくしたりザラついた引き心地にしたりと、いろんな性格付けができるのが伝わったかと。やれることは本当幅広いと思うんですがこれもまた言語化が難しいです。

繰り返しになりますが、ここまでに紹介した画像はあくまでイメージで実際にやる場合は角を立てたり形状を変えてみたりともう一工夫が必要です。
というのも自分自身これが1番良いやり方じゃないと感じていて、固定概念や先入観にならないよう読んだ方々のまだ見ぬ新しい発想のためのサンプルに留めておいてほしいんです。色々違う手法を試してはいますが、自分から出てくる発想は自身を越えることはできません。私が知り得た知識情報ノウハウはここに全て出力したので是非もっと素晴らしい方法を探ってみてください。


完成したものがこれ。


外装パーツこそ一通り変わってますが、トリガープルに関係する内部パーツは全て純正です。箱出しのトリガーから大きく変わってはいないので動画では伝わりませんが、シアの2段引きや戻ってこない現象は起こらず、引いた後にウォールのある感触を表現できました。引き切りもザラついておらず、現状ではやや粘りますが純正よりはずっと気持ちのいいトリガーフィールになってます。
これでひと段落つきました。







▉社外パーツでトリガーを設定する
(なんか趣旨とズレてない?)

素直に社外カスタムパーツでシングルステージ・2ステージ・トラベルやリセットの調整する方法も書いときます。どのイモネジ締めたら何がどう変わるのかっていう説明書ないんですよね。ショップの解説画像も間違ってますし。触ればわかるけどまあ難しいよね。

......ていうか真面目な話、自分でウォール加工するよりこれでやった方がずっと楽なんすよね。いちいちバラさなくていいし再調整も楽。上記の加工しないとならない場合といえば買ったトリガーに調整ネジついてない時とかですね。ネジなくてもタップ立てればいいんですがスチールトリガーは硬くてあんまりやりたくないな....


調整するネジはセミオートシア・トリガー後部・トリガー前方の3つ。それぞれ対応する位置にネジがあるトリガーとシアを買いましょう。全部入りのコンプリートトリガーボックスセットでなくて大丈夫。
順番に説明します。

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▉ディスコネクター用 リセット調整ネジ
まずトリガー前方。このトリガーでは下部に露出しており、ものによって分解して前方の上部から調整するタイプのものもあります。
ここがディスコネクターの作動タイミングを調整するネジで、要はトリガーリセットの位置を変更します。

緩めればしっかりとトリガーを戻さないとリセットしない、信頼性を高めるタイプ。
締めればブレイクから少し戻せばすぐにリセットする、セミオート速射に向いたタイプの調整が行えます。

緩めすぎるとディスコネが解除されず、トリガーが戻らなくなります。
締めすぎればディスコネが作動せず、セミがフルオートに。
この間で位置調整して固定します。

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▉トリガー用 待機位置・トリガートラベル調整ネジ
次にトリガー後部の上。画像左側の矢印で、このトリガーはハンマーダウン時にレンチを差し込める位置にありました。
このネジはトリガーの待機位置を調整するネジ。
緩めれば純正トリガーに近い、トラベルの長いトリガー。
締めれば速射やテイクアップのない、トラベルの短いトリガーにできます。

緩めた場合はトラベルが長くなるため、2ステージ向きの設定になります。1番緩めた状態から少し締めてテイクアップの部分を遊びを無くせば2ステージトリガーの1stステージから引き始められます。
逆に締めると内部のトリガーバーがセミオートシアに触れた状態で待機させられるため、シングルステージ向きの設定が可能です。
締めすぎるとトリガーリセットできなくなるので、トリガー前方のディスコネクター調整ネジとバランスを取りながら決定します。


▉セミオートシア用 ブレイクまでのトラベル調整ネジ
次、画像右側のセミオートシアにつけられたネジです。
これはウォールからブレイクまでのトラベル量を決定する役割があります。

緩めればウォールからブレイクが長い、いわゆる人参やアイスクリームのように粘るトリガー
締めればブレイクが短い、ガラスを割るようなクリスプなトリガー
また、締めすぎるとハンマーを起こせなくなります。




以上がそれぞれのネジの役割の説明です。

ディスコネクター用とトリガー用のネジと合わせることでいろいろなトリガープルを再現できますね。
・トリガーネジを緩めてセミオートシアのネジを締めれば、1stステージのトラベルを長く取り、ウォールからクリープなしにパキパキとした感触でブレイクする2ステージトリガー
・トリガーネジある程度まで締めてセミオートシアネジを緩めれば、ミルスペックのシングルステージのように遊びがなく長いトラベルの先にブレイクする、不意な誤作動を防ぎやすいトリガー
・全てのネジを様子見ながら締めることで、僅かに引けばブレイクし、少し戻せばリセットする、速射しやすいトリガー

精密射撃で使うならば上のタイプ、速射だけに特化するなら下のタイプが人気になるでしょうね。
リセット位置を短縮した下のタイプからトリガーを緩めれば、2ステージだけどリセットの早い精密射撃でと速射の両方が楽しめるトリガーも作れると思います。

実際にそのようにセッティングしたトリガーがこちら。トリガーとシアを入れ替えただけでこのようなトリガープルに。ネジロック必須な程度でまじでありえんくらいめっちゃ楽です。








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トリガープルの性格付けはここまでで完了。
あとは信頼できる確実な作動にするために最後の仕上げをします。



▉最後の抵抗抜き

抵抗抜きは前回やったはずでは?トリガー戻らないとかその辺直したんじゃないの?

今回組み込んだパーツ使った場合の話に限ってですけど、実は直りきってなかったんです。
フル純正トリガーボックスでさえ元の個体差や使い込み具合で動き方が全然違うのに、どうせ調整するなら調子の悪い個体のボックスをベースに組み込むかって始めたんです。
加えて見た目がいいだけのクソ社外トリガーと同じく見た目がいいだけのクソ社外セレクター。片方だけを組み込む分にはすり合わせだけでちゃんと動くんですが、2つを同時に組み込んだ故に相性の悪さがさらに酷くなり、あれを直せばこちらがダメの繰り返しで結構大変な思いをしましたね。おかげで毎日何回もトリガーボックス分解結合やることになって今回の記事に繋がりました。

色々やった結果、セレクターのミゾ(ディスコネが入り込む部分)が狭くてセレクターを横から押しながら撃つとディスコネが動かないことがわかり、ミゾ広げたり側面研磨したりいろんなことやったんですけど、最終的に潤滑性の高いオイルの併用でなんとかなりました。


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トリガーの中までペーパーかけてた

でもオイルを変えて動くようになるというのは根本的な解決になってないし、求めていたのは確実な作動の上にある気持ちのいいトリガーフィールです。もうやれることは正直やりきったし何をすればいいか正直困ってました。



大元はといえば、この社外トリガーの軸穴が純正より広くて斜めに傾くという点です。トリガーが傾いた分ディスコネも傾き、ハンマーやセレクターと接触して動きが妨げられる。これをなんとかしたい。


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純正トリガーの軸穴はφ6.1〜6.15前後、このトリガーはφ6.2〜6.3くらいで、軸にアルミテープが一周巻けてしまうくらいのスキマがありました。実際アルミテープを巻いている間はある程度マシな作動にはなってたんですが、軸の滑りが悪くなったり分結を繰り返すと剥がれたり変形するので断念。

ちなみに軸の外径はφ6.0、ディスコネ内径はやや大きくφ6.4〜6.5あたり。
寸法差の吸収か軸の抵抗を減らすためかわかりませんが、この緩いディスコネ内径ではトリガーが傾いたときに軸で耐えてもらう方法は難しそうです。

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作業初期の写真 実際にアルミテープ巻いてた

なんとかなんねーかなと悩んでいると、トリガーが傾く以外に横方向にガタがあることに気づきます。国産のガスブロだし結構詰められた寸法になってると勝手に思い込んでいたので気にしたこともなかった。

下画像にトリガーボックスの寸法と、ついでにディスコネの内径が広いせいで軸に対してどれくらい斜めるのかも撮っておきました。図にすると結構すごい。

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トリガーボックス横方向の内寸は10.1mm程度。
対してトリガー一式では9.7mm。ぴったりにすると動かなくなっちゃうので0.3mmくらいは余裕があります。それだけガタが出ちゃうわけですね。

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加えて、パーツ同士の接触面積が多いことも気になってはいたんです。
トリガー左側面で触れているトリガーBとは段差もなく密着しててクーラーを外した後のCPUのようにオイルが一面に付着してることが多いですし、右側面も広い範囲でトリガーボックスと接触します。
複雑なMWSではごく僅かな抵抗も減らしたいので、側面研磨して段差とか作りたいなあでも平面出ないと傾いて意味ないし...とか考えてたんですけど。


で、スキマ埋めるならシムじゃんって気づきます。海外製GBBとか電動のメカボならともかく国産のガスブロでシム調整なんて、しかも誰もやってなさそうだしコレやる意味あるんかな... 考えてる人はいても実際にシム入れたようなツイートないし....

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と思いながらもできることは全部やろうってことでシムを注文します。
軸の外径が6mmなのでそれに合う商品を探していると、0.05・0.10・0.20と丁度欲しいサイズのシムが見つかりました。まさかエアガンにヨコモの製品入れることになるとは想像もしなかったです。

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この0.05が良くて、セレクターと左側で接触してしまうディスコネクターを右側に寄せたかった所にトリガーとの隙間にギリギリ1枚入るのが0.05だけでした。0.10だと入らないので本当助かった。
トリガーBとの間にも入れてあげます。こちらは0.10mm。ボックスとの余裕は0.3mmなので0.20を入れてもいいんですがテストなのでとりあえずこれで。

すると、

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シムを入れる前には見られなかった隙間ができるようになりました。これで接触する面積はシムの分だけになり、回転抵抗は大きく下がるはず。

IMG_8862

加えてトリガーBの左にも0.10を追加。このパーツはボックスとは相対的に回転しなさそうですが、トリガー全体を右側に寄せたいしトリガースプリングがトリガーとあまり離れるのも良くないかなと思ってこうしてみました。
トリガー右側面にも0.10を入れ(ページ最上部の写真)、トリガー外側のシムで増した厚みは合計0.3mmに。

IMG_8863

やはり左右にも隙間が生まれ光が通るように。
寸法も10.0mm程度になったので、ガタ取りもうまくいきそうです。
トリガーの方はこれでOK。




せっかくなんでシアの方も入れちゃいましょう。
シム余ってるし。

IMG_8869

セミフル合わせると9.8mm。フルオート側は抵抗抜きする必要はそこまでないのでセミオートシアの左右に入れ込みます。
本来なら軸径に合ったシムを入れるべきなんでしょうけど、トリガーに入れたのと同じものがぴったり収まっちゃったので流用しました。

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どちらも0.10を入れて+0.20mm。外寸も10.0mmでボックス内寸と0.1mmの余裕があるので作動は大丈夫そう。シア側の抵抗抜きも完了です。



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シムセッティングが決まったのでこれで実際に組み込みます。
あんまり期待はしてなかったですが、もう本当にこれ以上やれることがないのでちゃんと動いてくれと藁にもすがる思いでしたね。ここまで長かった。





トリガーボックスをレシーバーに戻し、トリガーピンを入れ、セレクターを装着。
使いたいパーツを全部入れて変なMWSを作りたいという雑な動機から組み始めたこのM4E1もトラブルをクリアし、ついに完成へと近づいてきました。
トリガーを引き絞ります。





すると、軽く触れるだけで違いが現れました。
そのままウォールへ当たり、抵抗を感じながらトラベルを続け、ブレイク。
問題だったリセットも明確。繰り返しても確実な作動をするトリガー。
長いことMWSを触ってきた中で、もっとも滑らかなトリガープルでした。



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プラスチックや金属を限界まで磨いたことがあるでしょうか?
切り落としたままの断面は傷だらけ、角にはバリも出ています。これをヤスリたちを使って処理し、なめらかな表面に変えていく。金属の棒ヤスリ、荒目から細目のサンドペーパー、クロスやコンパウンド。これらで磨き続けることで、どんな荒れた表面であっても鏡のように美しい輝きを放つなめらかな表面が得られます。


パーツ同士を離して抵抗を抜き、各所を磨きに磨くことで生まれるなめらかなトリガープル。
ザラついた感触や2段引きだったあの純正箱出しのトリガーはそこにはなく、ガラス表面をオイルでコーティングしたような、溶けた氷が鉄板の上を滑るような、気持ちのいい感触。
すこぶる悪いものが改心して良いものに生まれ変わるギャップが大きいほど衝撃は増すというものですが、トリガーの引き心地なんかで感動を覚えることが来るなんて考えもしませんでした。
まあ、自分が何日も何時間もかけて作業し続けた苦労がちゃんと実ったのが嬉しかったんですね。
記事を書いている今となっては日数が経っていますが、組み上げた時の喜びは昨日のことのように思い出せます。





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社外トリガーボックスを入れれば2ステは終わりと冒頭に言いました。冷静になった後でこれと比べてみても、なめらかさにおいてはこの詰めた純正トリガーボックスの方がずっと上で、社外にはまだ角のたったザラつき感が残っています。これも安物ではないんですが、やはり量産品では仕上げに限界があるものです。2ステージのはっきりしたウォールもまだ社外品の方が上ですが、これは加工を続ければ良くできる所ですし、引き切りのプルウェイトを軽くした性格のトリガーであると考えればこれも違う方向に良いものという評価ができます。



紹介したPrecisionShooterのページの始めにこんな言葉があります。
"実のところ、これは好みの問題です"
"シングルステージと2ステージ、両者にはどちらにもメリットがあり、用途や目的によっても左右されます"

加えてシングルステージの中にもクリスプでリセットの短いもの・トラベルが長く粘るものがあり、2ステージの中にもウォールが重いもの・差が少ないものがあることをご説明しました。

全てにおいて完璧で万能なトリガーは存在せず、それが良いか悪いかは射手の好みと使い方による、ということです。
MWS純正箱出しのトリガーを"良くする"といって作業を続けていましたが、人によってはその純正のトリガープルが素晴らしいものだという意見があるとしたら、それも間違いではない。実際長いこと純正のまま使い続けてこれも悪くないなと思っていましたし、調整のコストや手間もかからずに射撃できるのでそういう意味では良いトリガーとも言えます。あくまで自分の趣向が変わった関係から相対的に悪いトリガーになってしまっただけで、絶対的に悪いトリガーなんてものはないのかもしれません。







今回はその"相対的に悪くなってしまったトリガー"を加工して"相対的に見て良いトリガーに改良"しました。
つまりこの記事で紹介した手法で得られた良いトリガーは筆者が感じている主観であって、他の人がこの個体を触ってみて「いいトリガーだね」と感じる確証はありません。
なのでこの記事内では作業途中のパーツの写真しか載せていません。私が良いと感じたパーツをそのまま再現できたとしても、その人にとっては悪いトリガーかもしれないからです。


トリガージョブの正解は自分の中にしかありません。
作業し終えて自分が良いと思えたのなら、それは良いトリガーです。





おわり


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あとがき
冒頭にも書いた通り、今回のような人にわかりにくい作業でアドバンテージを得る工法はあんまり公にしたくない人が多い印象がありますよね。技術料で自分の利益にしたり、知り合いだけに共有したり、クローズな場での情報になるイメージ。人やショップの作動を見て憧れを持ち、やり方を探しても公開されていなくて自分もやりたいと熱くなったり、やりようがわからなくて残念に感じたり。ネットで作動を公開するのに工法を書かないのはその人の自己満足でしょうし、その人が得た知見をタダで手に入れようとするのがおこがましいのもあります。趣味における知的財産を公開するしないは当然個人法人の考えであるべきだと思います。

以前の記事でも述べたかもしれませんが、こういった情報を公開することで業界全体の技術レベルの底上げを手助けする1つの要因になれたらな、と自分の場合はこう思っています。
自分の"趣味への向き合い方"の傾向として、飽きても同じ趣味を低い熱量でゆっくり続けていくようなやり方をしています。一気にやれることを全てやってしまうと短い期間で伸びしろを使い果たしてすぐに飽きてしまう。ゆっくり続けることで同じ趣味を長年飽きないように続けられるという考え方です。

ただしこれにも限界があるもので、そろそろ本格的に飽きてきそうな気もするんです。なので自分が持っている技術・考えていること・今までやってきたことを足跡を残しておけば、同じ趣味を新たに始めた熱量のある人を短期間で高いレベルに育てられる。その人がメーカーやパーツメーカーの開発に携わる可能性もゼロではないわけですし、業界全体のレベルが高くなれば自ずと次に生まれてくる新製品もよりよいものが早いタイミングで製品化されるのではないかと。
そうなれば自分が飽きる前に自分が楽しめそうなものが新しく手に入る。長く趣味を続けるための要素のひとつのために、回りくどいけれどコストが掛からず
そういった目的で記事を公開してます。もちろんいくらかの承認欲求もありますけどね。

作業内容や調べたことをまとめていれば、後で忘れてもハッキリ思い出せるし人に教えるときもURL送るワンアクションで完結して手軽に済む。実用面でもメリットはありました。
自分のブログを読んだ影響から情報をまとめはじめてくれた方々もいらっしゃっるようになり、お互いに知識の交換と共有ができるようになりました。その方も言語化して形に残す大切さを実感したようで、記事を作るのは大変だけどそれだけのやる価値はあったような手応えを感じていたようです。


ともかく、この記事でMWSのトリガーを弄り倒して気持ちの良いトリガープルを実現する人が一人でも増えてくれたら幸いです。









あとがき2
ちなみに記事内で使ってたRadianのVERTEXタイプのトリガーですが
これ、実はシングルステージです。

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もともと組み込んでちゃんと動けばいいやーって雑なノリで作業始めたので、2ステージ化なんかそもそも考えてませんでした(笑)
動かねーぞなんやこのクソトリガーとセレクターがよ〜とか繰り返してるうちに熱くなっちゃったのが全ての元凶。辛かったけど思い返せば楽しかったですね。
シングルステージもイモネジさえ追加できれば再現できそうなのがわかりましたし、これもそのうちやりたいですね。
2ステは違うトリガーでまた作ろうかな。



ほんとにおわり。
ここまで長い記事も久しぶり。お読みいただきありがとうございました。